岐路に立つ「慰安婦」問題とメディア
昨年8 月の「慰安婦」報道検証から始まった朝日新聞バッシングは、この半年間に多くの問題を浮き彫りにしてきました。どんな時代でも「教育」と「報道」は政治の動向を映し出すバロメーターですが、まるで戦争前夜のようなキナ臭い空気に満ちている今の日本で何が起こったのか、振り返ってみましょう。
「慰安婦」記事を書いた記者への誹謗と脅迫
なぜ朝日新聞はこの時期、「慰安婦」報道検証をしたのでしょうか。内外から「慰安婦」記事の問題点や報道姿勢を繰り返し問われるため、戦後70年を前にすっきりさせたいという狙いがあり、1991年に初めて韓国の金学順(キムハクスン)さんの記事を書いた記者への誹謗中傷もあったからだと言われています。
その記者・植村隆氏は2014年3 月に朝日を早期退職し、神戸松蔭女子学院大学に内定していました。ところが、2 月6 日号の週刊文春に「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」と書かれてから大学に抗議が殺到、内定は取り消されました。非常勤講師をしていた札幌の北星学園大学にも解雇を求めるメールや電話、果ては脅迫状まで送り付けられました。
8月の報道検証では植村氏の記事に捏造などはなく、言葉の誤用や事実関係も他社と変わらないとしています。妻が韓国人で、義母が戦後補償運動の団体幹部だったため、「彼女たちと結託して『慰安婦』問題を仕掛けた」とでっちあげられたのです。植村氏はさらに「国賊」「反日工作員」と罵られ、ネットには娘の実名や写真までさらされて「自殺するまで追い込む」と脅されました。この異常事態に、植村氏の応援団が誕生し、全国の弁護士380人が脅迫事件を札幌地検に告発。一度は植村氏を雇い止めすると言った大学ですが、最終的には契約更新を決定しました。
植村氏は、月刊誌などに「私は“捏造記者”ではない、不当なバッシングには屈しない」と手記を発表する一方で、2015年の年明けには名誉毀損で東京地裁に西岡力氏と文藝春秋を、札幌地裁に櫻井よしこ氏と新潮社など3 社を訴える裁判を起こしました。右派メディアの“言論テロ”に対して法廷闘争を始めたのです。
しかしこのように悪質な人権侵害事件でも、メディアが取り上げるまでには半年以上かかりました。関連記事が没になったという地元記者は、「自社に火の粉がかかるのを怖れて、ひるんだのではないか」と言います。深刻なのはこうしたメディアの自主規制や萎縮です。
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