2016年4月3日日曜日

【ソウル通信 第2号】「アジュモニ カムサハム二ダ!(おばちゃん、ありがとうございます)植村隆

 3月9日の朝、散歩の途中で、カトリック大学の正門前を歩いていたら、おばちゃん(アジュモニ)たちが、新聞をただで、学生たちに配っていた。
よく見ると、韓国の有力経済紙「韓国経済新聞」である。
私も一部受け取った。

「何でただで配っているのですか」と尋ねたら、学生たちに宣伝をしているのだという。新学期の学生向けのキャンペーンで通常なら購読料月15000ウオン(約1500円)のところを、学割で7500ウオン(約750円)で、読めるのだという。

韓国では日刊紙は一部800ウオン。韓国経済新聞は、週6回(月~土)発行だ。
コーヒー数杯分の値段で、新聞が毎日読めるということになる。


ずうずうしいと思ったが、おばちゃんたちにお願いした。
「授業で新聞を教材に使いたいので、週1回、学生用に新聞を無料で提供してくれないだろうか」
そんな虫のいい話はないかもしれないと思ったが、ひとまずお願いだけは、してみようと思った。


北星学園大学の非常勤講師時代には、朝日新聞など日本の新聞を教材にしていた。
韓国でも、韓国の新聞を授業の教材にしたいと思っていた。
そんな矢先の「出会い」だった。

「ちょっと待っててね。担当者に連絡しておきますから。あなたの電話番号は」。
2人のうち、一人のおばちゃんが、私に携帯番号を尋ねた。
おばちゃんたちは、アルバイトで新聞を配っているだけで、韓国経済新聞のスタッフではなかった。
しかし、すばやい行動だった。

携帯の番号を教えると、しばらくして、韓国経済新聞の担当者から電話がかかってきた。
そして、その担当者が、わざわざ大学にまで、訪ねて来てくれた。

この地域を担当する首都圏読者2部の次長さんだった。
次長さんの話によると、これまでも大学の商学部の教授らが、教材で使う場合、無料で提供してきたという。それに準じて私のクラスの学生たちにも週一回全員に無料で提供してくれるという話になった。

その代わり、私が韓国経済新聞を一年間購読することにした。

かくして私は、韓国経済新聞の読者となり、学生たちは週1回、この新聞を教材で使えることになった。
第二回目の講義(3月15日)から、「新聞をきちんと読もう」と言って、同紙を学生たちに配っている。


韓国経済新聞は、日経新聞のような経済紙だ。東亜日報や朝鮮日報、ハンギョレなどの一般紙とは違って、経済報道が主である。
私は経済記者ではなかったが、学生にとって、就職準備などのため、経済情報は大事だろうと
考えたのだ。

しかし、韓国経済新聞は、留学生時代だけでなく、ソウル特派員時代もほとんど手にしたことがなかった。

そこに「誤算」があった。

改めて、読むと、結構これが難しい。中々、手ごわい新聞なのだ。
韓国語を読む力が劣化しているのに加え、韓国の経済事情に疎いからだ。
このため、読むのに時間がかかる。

しかし、教材に使うと言った以上、受講生たちに「無知」をさらすわけにはいかない。

学生たちに「きちんと新聞を読もう」と指導しているこの私こそが、一番熱心に新聞を教材に勉強しなければならない立場だということに、気づいたのである。

このため、毎日、新聞を持ち歩き、時間のあるときはなるべく、新聞を読むようにしている。
カシオ製の韓国語の電子辞書は手放せない。
そして、切り抜いた新聞記事をA4版のノートに貼り付けて、「復習」している。

あの朝のおばちゃんたちとの出会いが、私に「勉強」の習慣を与えてくれた。


「アジュモニ、カムサハム二ダ!(おばちゃん、ありがとうございます!)」  (植村隆)

植村隆さん(元朝日新聞記者)を応援するサイトです。

1991年に書いた「従軍慰安婦」に関する2本の署名記事。23年後に「捏造」のレッテルを貼られ、植村さんは言論テロとも言える攻撃を受けています。

非常勤講師として勤務する大学へも脅迫状や大量の抗議メール・電話が届き、高校生の娘さんはネット上で「自殺に追い込め」など脅しの言葉にさらされています。 言論で対抗してもデマの拡大は止まりません。

そこで、汚名を晴らし家族らの人権を守り、大学の安全をとり戻すため、2件の名誉棄損裁判を提訴しました。2015年1月、週刊誌で「捏造記者」とコメントした西岡力氏とその発行元を被告に東京地裁へ。同2月、西岡氏の言説を拡大し脅迫を肯定するような記事まで書いた櫻井よしこ氏と掲載した週刊誌などの発行元3社を被告に札幌地裁へ。

「植村応援隊」はこの裁判や植村さんの言論活動を応援するために、1月30日に結成されました。ぜひ一緒に応援してください。