2015年10月30日金曜日

東京訴訟「第3回口頭弁論」と「報告集会」のご報告

【口頭弁論】

2015年10月26日、午後3時、東京地裁103号法廷。
傍聴席から向かって左の原告側の席に、植村さんと中山武敏弁護士をはじめ代理人弁護士たち10数人が着席。対する右の被告側の席には、喜田村洋一弁護士のほかは若い弁護士が1人のみ。

裁判官3人が入廷し、まず原告側弁護団事務局長の神原元弁護士との間で、損害賠償請求額の内訳についてのやりとりがあった。
原告側は、被告から受けた不法行為として、名誉棄損、プライバシー侵害だけでなく、生活権の侵害も主張したため、裁判所側は、それぞれに対する請求をいくらずつと主張するのかを質問。神原弁護士は「一つの行為によるので合算しての請求になる」と答えたが、裁判所は「一つひとつがいくらか特定できないか」と重ねて求めた。結局、原告側が次回に請求の内訳を述べることになり、第2準備書面のうち関連部分だけ陳述は保留となった。

続いて原告側が文書送付嘱託、調査嘱託の申し立てをした件の手続きが終わり、神原弁護士が立ち、全体で70ページ近い原告側第2準備書面のうち、ポイントとなる部分を述べた。

神原弁護士による要旨陳述の主な要点は次のようなものである。

1.被告らは、「捏造」とは「意見ないし論評」であると主張しておりますので、反論します。
辞書によれば、「捏造」とは「事実でない事を事実のようにこしらえること」、「本当はない事を、事実であるかのように作り上げること。でっちあげ。」を意味する言葉です。
ジャーナリズムにおいて、「捏造」は、「意図的に」事実をでっち上げることであって、意図的でない「誤報」とは明確に区別されています。

裁判例においても、「捏造」は意図的に事実をねじ曲げるという意味に理解されている。遺跡から発見された石器が捏造と報道されたケースで、福岡高裁平成16年は、「『捏造』とは、『ないことをあるかのように偽って作りあげること、でっちあげること』を意味する言葉である」と定義した上で、原告の請求を容認している。
また、研究論文にねつ造があるとされた事件で、仙台高裁平成27年は、以下のように認定しています。「本件各記事は,いずれも,『この論文には捏造ないし改竄があると断定せざるを得ません。』という記述があるものであるところ,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,その文言の通常の意味に従って理解した場合に,論文のねつ造ないし改ざんという証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張していることは明らかであるから,本件各記事は事実を摘示するものである」(9頁)

本件各記事の文脈に照らしても、「捏造」は「でっち上げ」の意味で用いられています。西岡論文Aは、「捏造」を「誤報」と区別し、故意による捏造事件の典型である「サンゴ損傷捏造事件」を引き合いに出し、「都合が悪いので意図的に書かなかった」「義理のお母さんの起こした裁判を有利にするために、紙面を使って意図的なウソをついた」「意図的捏造」等と強調しています。

西岡論文Bも、「朝日記者の裏の顔」「単独インタビューがとれたというカラクリ」等と悪しきイメージを強調し、「あるある大辞典」の事件をひきあいにして「意図的に身売りの事実を報じなかった」と強調しています。

論文CとDは、朝日検証記事に対する反論です。朝日検証記事とは「植村氏の記事には、意図的な事実のねじ曲げなどはありません」というものです。そして、論文Cは「この朝日の検証は間違っている。植村記者は意図的な事実の捏造を行い」とし、論文Dは「誤報というよりも、あきらかに捏造である」と断じています。

また、文春記事Aは、「捏造と言っても過言ではありません」とした上で、原告の親族に慰安婦支援団体の幹部がいることを明らかにしています。この記載は、原告が記事を捏造した動機を示すものと読むほかありません。

このように、「捏造」は、辞書的意味においても、実際社会においても、裁判例においても、そして、本件の文脈上も「故意に事実をねじ曲げること、でっち上げ」を意味しております。原告が利己的動機で事実をでっち上げたというのは、証拠により認定可能な事実ですから、事実を摘示したものというべきです。

そして、それは、真実を報道すべき新聞記者としての原告の社会的評価を低下させるものですから、名誉毀損が成立します。

第2の論点について述べます。34頁以下です。
「捏造」が故意に事実をでっちあげることだとすれば、真実性の抗弁が成立しないことは明白です。金学順氏は自ら「私は挺身隊だった」と述べていたし(甲21の2本文2行目、甲50)、慰安婦を挺身隊と呼ぶ記事は原告の記事の以前にも以後にもありました。さらに、同じ時期の新聞各紙は金学順氏が妓生学校にいた事実に触れていないし、そもそも原告は会社の上司の指示や示唆に基づいて記事を執筆したに過ぎない。

そうすると、原告が悪意で事実をでっち上げた等とは到底いえないことは明白なのであります。

その他の不法行為についても述べます。これは、「第4」50頁以下のとおりです。

文春記事Aは、「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」というタイトルからして、慰安婦問題を誠実に議論しようというものではない。原告の記事ではなく、原告が「お嬢様女子大教授に」なったことを攻撃の対象とし、その実現を阻止したいとの意欲を読者に抱かせようとするのがこの記事の目的である。

文春記事Bは、さらに悪質である。この記事が掲載された当時、被告文春は、文春記事Aを読んだ人々が松蔭に抗議を集中さえ内定が取り消されたことを知っていた。そして、自社の記事がそのような効果を生じることを承知の上で、むしろ同じ効果が生じることを強く意欲して、北星学園の名称を明らかにして記事Bを発表したのである。

その結果、原告は、職場や自宅に対し、家族特に娘に対するものも含め、様々な脅迫や嫌がらせを受けた。これらの嫌がらせが原告の平穏な生活を侵害したことは明白である。

論述は以上ですが、裁判所には、本件で原告が受けた被害の深刻さに、是非、向き合って頂きたいと考えます。
原告は、自身が名誉権や名誉感情を毀損されただけでなく、激しいバッシングと迫害により雇用を脅かされて生存の危険に晒されました。くわえて、家族、とりわけ、本件記事当時は生まれてもいなかった娘さんまでもが、父親の20年以上の前の新聞記事を理由に、「ころす、どこまで行っても殺す」などと脅迫状を送られているのです。原告が本件で請求している金額は実に控えめなものです。

以上の次第ですから、原告の請求を速やかに認容して頂きたく、陳述と致します。


この日の法廷では、最後に今後の進行について簡単なやりとりがあった。被告側の喜田村弁護士は、この日は座ったままでなく一回一回立ち上がって意見を述べたが、いかんせん声が小さく聞き取りにくかった。
決まったのは以下のとおりだ。

1.原告側が11月末までに、補充的な陳述書を提出する
2.それらを前提に、被告側が2月5日までに反論を提出する
3.第4回の次回口頭弁論を、2016年2月17日午後3時から、東京地裁103号法廷で開く

この日は、3時18分にあっさりと閉廷した。

【報告集会】

午後4時から、いつも通り参議院議員会館講堂で報告集会が開かれた。
まず中野晃一さん(上智大学教授)の講演「右傾化する日本政治と植村さんへの攻撃」。
中野晃一さん



中野さんは、「99年に6年ぶりに帰国してみたら、本屋にヘイト本が平積みになっている。ずいぶん変わったなと感じた」と自身の体験から説き起こし、この間の日本の変化と、その中で起きた植村さんへの攻撃に関し、ていねいに跡付けた。
たいへん整理された話なので、中野さん自身の手によるレジュメの「まとめ」部分を、以下に再録する。

1.    ポスト冷戦世代の政治家、右派メディア・知識人、右派団体・運動体との連携で1990年代後半から始まったバックラッシュの流れが小泉政権期に主流化していった
2.    自民党内の穏健保守、そして民主党の崩壊を経て、第2次安倍政権でついに歴史修正主義は、政権与党の公式な政策となってしまった
3.    オルタナティブとなる野党のない政党システムの下、自民党による国内メディアの統制・抑圧には相当程度成功してしまった
4.    アメリカを中心とした海外キャンペーンの展開が始まった
5.    当面は、アメリカの顔色をうかがいつつ、許される範囲での歴史の書き換えを推進しようとするものとみられる
6.    安保や経済面での対米追随政策とのバーターで、歴史修正主義のお目こぼしをしてもらう方針も、いずれ破綻する可能性
7.    海外では、「慰安婦」問題は女性の人権問題や軍事性暴力の問題と捉えられており、植村さんへの攻撃も同じく言論や学問の自由など人権問題と深刻に受け止められている

次に、植村隆さんの「V.S産経新聞 韓国訪問を終えて」と題する特別報告。韓国でナヌムの家を訪問した折に元慰安婦のおばあさんと抱き合ったが、彼女の体は本当に小さかった。「慰安婦問題とは、歴史資料などではなく、一人ひとりのおばあさんの悲しみだと小さい体を抱いて知った」と植村さんは語った。


その訪韓前の7月末に植村さんを取材に来た産経新聞の阿比留記者は、「強制連行」とかつて書いていた産経新聞を植村さんに示されると、「間違ってますね」と何度も繰り返すばかり。さらに植村さんが、慰安婦のおばあさんを取材したことは?と聞くと、「ありません」と答えたという。

これらの経緯も含め、植村さんは「週刊金曜日」10月30日号から、5回の連載をする予定だ。


植村さんの韓国の旅に同行した明治学院大学の学生2人もそれぞれに思いを語った。
「祖先の関わった侵略戦争。それを清算しなかった戦後。その上に私たちは在る」
「ハルモニの方々と手を握った。言葉につまった末、『私たちの歴史の中で、日本はひどいことをしました』と言うと、ハルモニから『そのことを日本の教科書に残しておくれ』と言われた」
また、北星学園大学で植村さんの教え子だった韓国人学生もソウルから駆けつけ、「植村先生のバッシングはあまりに非常識なのに、日本言論はなぜ扱わないのか」。

続いて札幌の渡辺達生弁護士が、札幌訴訟(被告・櫻井よしこ氏&新潮社など3社)の現状を報告。「(東京地裁へ審理を移すよう櫻井氏側が求め札幌高裁に退けられた)移送問題で、櫻井氏側が最高裁に特別抗告(という不服申し立て)を行い、その結果待ちで長引いているが、おそらく年明けには札幌地裁で第1回弁論が行われることになるのではないか」との見通しを語った。

角田弁護士

最後に、この日の第3回口頭弁論について、角田由紀子弁護士から分かりやすい説明があった。角田弁護士は、「裁判官には、植村さんたち当事者が受けた被害がどれほど大変なことだったか、その被害の質を理解してもらうことが大事だ」と強調した。

植村隆さん(元朝日新聞記者)を応援するサイトです。

1991年に書いた「従軍慰安婦」に関する2本の署名記事。23年後に「捏造」のレッテルを貼られ、植村さんは言論テロとも言える攻撃を受けています。

非常勤講師として勤務する大学へも脅迫状や大量の抗議メール・電話が届き、高校生の娘さんはネット上で「自殺に追い込め」など脅しの言葉にさらされています。 言論で対抗してもデマの拡大は止まりません。

そこで、汚名を晴らし家族らの人権を守り、大学の安全をとり戻すため、2件の名誉棄損裁判を提訴しました。2015年1月、週刊誌で「捏造記者」とコメントした西岡力氏とその発行元を被告に東京地裁へ。同2月、西岡氏の言説を拡大し脅迫を肯定するような記事まで書いた櫻井よしこ氏と掲載した週刊誌などの発行元3社を被告に札幌地裁へ。

「植村応援隊」はこの裁判や植村さんの言論活動を応援するために、1月30日に結成されました。ぜひ一緒に応援してください。